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takibi BRAND HI(火) STORY

マクロミルのその後

kokusei.jpgその後、ネットリサーチ業界は急激に成長し、「リサーチといえばインターネット」が標準になった。特殊な調査、国勢調査とか、特定の地域調査でなければ、面接票や対面・電話調査は行われない。まず自宅の在宅率が低いし、また自宅の電話も使われず、プライバシーの問題もある。
そしてネットリサーチの起こした価格破壊が、企業や政府のリストラにも重なり、従来型の調査を行う費用を捻出できる事業体は極めて限られた。そして、調査業界における勢力図は一変した。の間、10年から15年というところであろう。

「僕たちもあっという間にある種の産業の成熟化を迎え、当時二番目の競合であったヤフーバリューインサイトと合併しました。ヤフーにとっても、リサーチ事業が自社リソースを生かすことはできるものの本業ではなかった、ということもあったと思います。」

book_fukuyama.jpgそのマクロミルの「天下統一」以降、ネットリサーチ業界のトレンドはグローバル化になった。天下統一を果たした多くの日本企業が、豊臣政権以降の伝統なのか、このグローバル化にチャレンジするが、その多くの企業にとっては鬼門となる。
まず、日本ほどの豊かで実りある市場、またそこで私たちが意識しては気がつかずに用いているいろんな手段・常識が通用しない。また日本市場を制覇したことによる経営資源や経済性が、海外ではゼロからの出発となる。マクロミルもまずは手近な韓国、中国に進出を試みた。

だがアメリカの歴史哲学者、フランシス・フクヤマ氏が、長期での経済的な成功を約束する条件としてあげた「信を持つ社会」、すなわち国家と家族・親族の間の自発的な中間団体が多様な社会、の対極にある中国や韓国は、「長いもの(権力)に巻かれろ」の社会文化であり、消費者個々の小さく豊かな声に耳を傾ける調査産業は、あまりニーズがないのかもしれない。

調査という産業は、異質な文化、個人の自主性や自発的な嗜好が多様に存在する国の方が発達する傾向があるのであろう。
(日本では社会が同質なのになぜ、という疑問が湧くだろうが、同質は日本の一側面であり、例えば韓国の美女といえばほとんど同じ容貌スタイルであるが、日本にはアジアン美女から、モデル系、AKB系、肉感系と様々な容貌が支持されるように、一国としての趣味や嗜好の多様性は世界でも類を見ないところがある。)

metrixlab.jpg「アジアへの進出はあまりうまくいかず、やはり調査産業が盛んな欧米の企業と手を握らないと事業成功は難しいという結論に達し、僕たちはオランダの調査会社を買収しました。彼らは9カ国でリサーチ事業をしている。EUの統一市場では、ヨーロッパの国々また人種や宗教の多様性があって、リサーチは必要不可欠な産業なのです。」


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その時にマクロミルは、馴染みがあるホッとしたロゴを、新しいグローバルなシャープな印象のロゴに変えた。(これもtakibiがお手伝いさせていただいた。)しかもタグラインは「Innovation or Nothing」。

「僕たちはグローバル化に向けて、もう一度創業するつもりで精一杯頑張ろうとしたんですね。でもその時に、グローバル化と並んで、もう一つものすごく大きなテーマがでてきた。それはスマホの登場です。

Android_Apple.jpg僕には、スマホは単にパソコンから端末が変わったということではなくて、生活者の行動様式を変える、革命的で本質的なツールになる、という確信がありました。だからグローバル化とスマホ化。このコストも新規開発投資もかかる2つの分野に、企業として大きく成長するためにはチャレンジしなくてはいけない。

でも、資本市場にいる株主、特に事業に詳しくて短期的な株高を求める機関投資家にとってそれは大きなリスクだし、長期的な経営方針を理解してくれない可能性が高い。リスクを取らずコストを減らして利益を上げればいいじゃないかと。アメリカ流の四半期決算が導入されて足元の利益作りに追われるようになり、長い成長を考えることが難しくなるという問題に2013年ぐらいから直面して、非上場化の可能性を考え始めました。

そしてもし本格的にグローバル化をするなら、合理的に考えるともう僕じゃなくて海外のリサーチ会社の経営専門家にグローバル経営をやってもらうしかない。そう考えるに至って、ファンドと組んで会社の非上場化をしました。」

antenna*の誕生

「スマホには、決済機能がありカメラがあり、すべての連絡手段とGPSとメディアがある。その人のライフログが全部残ります。

cocacola.jpgだからP&Gとか、コカコーラ、そういった企業はスマホのすべてを使いこなそうとしている。もちろん調査会社として、スマホでアンケートに答えられるとか、そうした最低限の対応は当然だけど、もっとスマホをライフツールとして、マーケティング手段として使うビジネスを考えたい。そう僕は思い始めました。」

 

ガラケー時代には、ポータルであるi-modeがあり携帯の公式サイトがあって、それがコンテンツ産業を振り分けていた構造だった。そこにiPhone、アンドロイド、などのスマホが出てきてアプリが登場した。携帯会社の特権が消滅して消費者が自由にアプリを選び、そこに激しい競争が起きる。そして本来のスマホの多彩な機能が登場をし始めた。

 

antenna_logo.jpg「企業が知りたいのはその人が、どこに住んでいる男性何歳とかじゃなくて、ビル・エバンズを好きな人は誰?そういうインタレスト。最後はそういう興味による繋がりを見たいというところまでマーケティングが行くだろうと思いました。SNS、検索、いろいろな事業の可能性がある中で僕はインタレスト・グラフ(趣味による人間のつながり)。興味や好奇心によってつながるメディアをしてみたいと思った。それがアンテナです。

最初はニュースもやろうかと思ったけど、調べてみるとニュースを見たい人は単純な属性では分類できない。大ニュースやスキャンダルは老若男女全員が見たいもので、そこにはインタレスト・グラフによる分類はない、ということがわかってきた。それで僕は、ファッションやカルチャー、グルメなどのライフスタイルに行こうと思った。」

 

「2015年から2020年までの間に、映画やテレビ、すべてのメディアがスマホに取り込まれてくる。その時に僕はハイブランドを扱えるマーケティング媒体がないと思った。テレビはまだメディアの力を保っているけど、大衆的でハイブランドにはtoo muchです。

昔はハイブランド向けの雑誌、たとえばGQやVOGUEが元気だったけど今はどの雑誌も元気がない。ハイブランドが広告できるメディアは急速に減ってきている。スマホも実はそうです。インタレストの集団がないから、かなり大衆的という点ではマスメディアに似ているのかもしれない。

M1F1.jpg昔から視聴者ターゲットのF1、つまり女性の19−24歳、あるいはF2、女性の25-34歳は消費財産業にとって最重要なターゲットでした。つまりそこを押さえれば他の年齢層、また男性ターゲットも関心を寄せるから。

でも今その世代はあまりテレビを見ないし、また雑誌も昔より買わなくなっている。だからそこにマーケティングビジネスとしての事業性もあると僕は思いました。」

 

マクロミルを買収したファンドの人々は極めて優秀で、杉本さんと大いに意気投合した。そしてマクロミルの海外展開でもそれなりの手腕を見せている。ただしこのスマホへの取り組みについては、彼らは杉本さんのヴィジョンと熱意に強い関心を示さず、マクロミルとして今後注力していこうという方向性にはならなかった。

杉本さんはマクロミルから離れて、アンテナの経営に専念することにした。

adele25.jpg「吉田さん、アデルのアルバム『25』。アメリカで300万枚以上売れています。アメリカのCD売り上げの43%です。インターネットに一切出さなかったから、逆にこの現象が起きた。本当にいいものは手に入れたいコンテンツなら、インターネットに流さないほうが売れるんです。逆張りって面白いですね」大の音楽好きの杉本さんは、にっこりと笑った。

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